
はじめに
「自分の国に日本製品を輸出する会社を日本で作りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その場合、「経営管理」という在留資格が必要になります。(在留資格に関しては『在留資格とは』で詳しくご説明しておりますので、ご参照下さい。)
「経営管理」という在留資格がどういったもので、どのように申請をするのかのポイントをわかりやすくご説明したいと思います。
経営管理ビザの基本
まずはじめに、経営管理ビザが一体どのようなものなのか、その本質をしっかりと掴むところから始めましょう。
「経営管理」の3つの活動パターン
経営管理ビザは、正式には在留資格「経営・管理」と呼ばれます。
このビザは、外国人が日本でビジネスの舵取りを行うために不可欠なキーです。
具体的に許可されている活動は、大きく分けて以下の3つのパターンがあります。
【活動パターン1】新規事業の開始(日本で会社を設立し、その経営を行う)
これが最も一般的な、いわゆる「起業家」のパターンです。
自分で会社を設立し、社長(代表取締役)として事業をゼロから立ち上げる活動がこれに該当します。
飲食店、貿易会社、ITサービスなど、事業内容は多岐にわたります。
【活動パターン2】既存事業への参画(日本の会社に出資し、その経営に参加する)
すでに日本にある会社に投資(株式の取得など)を行い、役員として経営に加わるパターンです。
例えば、後継者を探している中小企業の経営を引き継いだり、成長中のベンチャー企業に役員として参画したりする場合が考えられます。
【活動パターン3】経営の代行(事業の管理者に就任する)
自ら出資や起業をするのではなく、既存の会社の経営者(オーナーなど)に代わって、事業の管理に従事するパターンです。
これには、日本法人の支店長や工場長、あるいは本社の部長クラスといった管理職としての活動が含まれます。
このように、経営管理ビザがカバーする範囲は広く、創業者である「経営者」だけでなく、会社の運営に実質的に関与する「管理者」も対象となります。
具体的には、代表取締役、取締役、監査役といった役員から、部長、支店長、工場長といった上級管理職までがこのビザの取得対象者です。
経営管理ビザの取得要件(2025年改正後)
経営管理ビザを取得するには、法務省(出入国在留管理庁)が定める複数の要件をすべて満たす必要があります。
特に2025年10月16日施行の改正によって要件が大幅に厳格化されました。
ここでは最新の取得条件をわかりやすく解説します(※改正前との比較は後述)。
主なポイントは以下のとおりです。
(参考:出入国在留管理庁公表「経営・管理」の許可基準の改正等について)
- 資本金要件の引き上げ(500万円→3,000万円)
- 常勤職員1名以上の雇用義務化
- 申請者またはスタッフの日本語能力要件の追加
- 申請者自身の学歴・経営経験要件の明確化、事業計画の専門家確認
など、これまで任意だった事項が厳格な必須条件に変わっています。
【経過措置について】
2025年10月16日施行の改正には経過措置があります。施行日前(2025年10月15日まで)に受理された申請は、原則として改正前の許可基準で審査されます。
また、施行日前から在留資格「経営・管理」で在留している方の更新については、施行日から一定期間は改正前の許可基準も考慮して判断されます。
ただし、永住許可申請や高度専門職2号への変更等では、施行日以後、改正後の許可基準に適合していない場合は認められない点に注意してください。
(参考:法務省『「経営・管理」の許可基準の改正等について(令和7年10⽉16⽇施⾏)』
それでは経営管理ビザの取得要件を一つずつ見てみましょう。
【要件1】事業所(オフィス)の確保
まず事業所(オフィス)の要件です。
日本国内に事業を行うための拠点となる事務所や店舗を確保していることが必要です。
自宅兼事務所は原則として認められません。
ただし、専有区画の実態や事業活動の独立性が客観的に確認できるか等により、個別の運用は最新ガイドラインに従います。
必ず事業専用に賃貸契約等をしたオフィスや店舗が求められます。
例えば、自宅とオフィスが同一住所の場合でも居住スペースと明確に分離された専用区画でなければ要件を満たさないので注意が必要です。
この事業所要件は、単に場所を借りればよいというだけでなく、事業規模に見合った適切なスペースであることも求められます。
郵便受けのみ等、事業所としての実体が客観的に確認できない形態(いわゆる住所貸しのみのバーチャルオフィス等)では、要件を満たさないと判断される可能性が高いです。
原則として、賃貸契約等により使用権限が明確で、通常の業務に必要な設備を備えた「事業専用の施設」として説明できることが重要です。
【要件2】資本金と従業員
ビザ取得には事業の規模が一定以上であることが必要です。
具体的には「資本金または投資額が3,000万円以上であり、なおかつ常勤の従業員を1名以上雇用していること」が求められます。
この点が2025年改正の最大のハードルと言えるでしょう。
従来は「資本金500万円以上 または 常勤2名以上の雇用」のどちらかを満たせば良く、極端に言えば500万円の出資があれば従業員ゼロでもビザ取得可能でした。しかし改正後はその選択肢が廃止され、両方を満たすことが必須となりました。
つまり、「最低3,000万円の資金投入」と「最低1名の日本人等スタッフの雇用」が両方欠かせない条件に変わったのです。
資本金3,000万円以上
株式会社の場合は払込資本の額、合同会社の場合は出資総額で判断されます。
個人事業主として申請する場合でも、事務所の賃貸費用・設備投資費・従業員給与など事業開始に必要な費用の総額が3,000万円以上投下されている必要があります。
常勤職員1名以上
日本人、永住者、日本人配偶者等、定住者など(いわゆる在留資格上の制限がない人)がフルタイムで1名以上雇用されていることが条件です。
ここでいう『常勤職員』は省令・ガイドライン上の用語であり、週◯時間といった画一の時数は直接規定されていません。
実態(雇用形態・勤務実績・社会保険の適用状況など)を総合して判断されます。
アルバイトやパートタイマーは含まれません。
外国人でも永住者や日本人配偶者等であればカウント可能ですが、就労ビザで働く外国人は含められない点に注意が必要です。
なお、業種によっては現場スタッフの雇用も追加で必要になることがあります。
例えば、飲食店のように日常的な調理・接客といった現場業務が発生するビジネスでは、経営者自身がそれら現場業務を行うことは経営管理ビザ上認められないため、店員や現場従業員を別途雇う必要があります。
したがって飲食店等では「最低1名の常勤職員」に加えて、店舗運営のためのスタッフも確保しなければ実際には事業が回りません。
このようにビザ上要求される人員と、事業遂行上必要な人員はケースによって異なることも覚えておきましょう。
「常勤職員」の対象範囲
「常勤職員」は要件により対象範囲が異なります。雇用要件(常勤職員1名以上)における常勤職員は、原則として日本人・特別永住者・永住者等のように就労制限のない者が対象です。
一方で、日本語能力要件における常勤職員(後述)には、就労系の在留資格で在留する外国人も含まれます。
【要件3】申請者またはスタッフの日本語能力
今回の改正で新たに追加された要件として日本語能力があります。
申請人本人または常勤職員のいずれかに、相当程度の日本語能力(CEFR B2相当)が求められます。
確認方法は最新ガイドラインに従います。具体的には以下のいずれかを満たすことが基準とされています。
- 日本語能力試験(JLPT)でN2以上に合格している
- BJTビジネス日本語能力テストで400点以上を取得している
- 中長期在留者として20年以上日本に在住している
- 日本の大学や大学院を卒業している(高等教育修了者)
- 日本の義務教育を修了し高等学校も卒業している
上記はいずれも「日本語教育の参照枠でB2相当」と位置付けられる基準です。
要は日常会話より一段高い、ビジネス場面でも支障なく意思疎通できるレベルの日本語力が求められるということです。
経営管理ビザで事業を行う以上、役所対応や取引先との交渉など日本語が必要な局面が多々ありますので、言語面での適応力も重視されるようになりました。
もし申請者本人が日本語に自信がない場合は、代わりに常勤スタッフ(雇用する従業員)の中で日本語堪能な人を確保するという方法も考えられます。
その場合、そのスタッフが上記基準を満たしていれば要件クリアとなります。
ただしビザ申請書類には、そのスタッフの日本語能力証明(JLPT合格証など)を添付する必要があるでしょう。
【要件4】申請者本人の経営経験・学歴
改正後は申請者自身の経営管理に関する資質についても要件が明確化されました。
申請者(経営者/管理者になろうとする外国人本人)が以下のいずれかを満たすことが必要です。
- 経営・管理または申請事業分野に関する修士号・博士号・専門職学位を取得していること
- 事業の経営や管理について3年以上の実務経験があること
例えばMBAなど経営学の修士を持っている、あるいはITビジネスで起業する場合にその分野の修士号がある、といった学歴が一つの証明になります。
また、学位がなくても3年以上のマネジメント経験(部長職以上の管理職としての実務や、自ら起業した経験など)があれば大丈夫です。
ここでいう3年には、日本でスタートアップビザ(後述)により起業準備活動をしていた期間も含めることができます。
以前の制度では、経営者本人の学歴・職歴は「管理業務に従事する場合のみ3年の経験」という限定的な基準でした(つまり既存企業の雇われ管理者になるケースのみ)。
しかし改正後は事業オーナーである場合も含め、すべての申請者に上記の経歴要件が課される形になりました。
これは「経営管理ビザを真に経営能力のある人だけに付与する」狙いがあり、いわば人物面での審査強化とも言えます。
【要件5】事業計画の実現可能性(専門家確認)
ビザ申請時には事業計画書を提出する必要がありますが、改正後はその計画について専門家(中小企業診断士、公認会計士、税理士など)の確認を受けることが義務化されました。(※出入国在留管理庁ホームページ『在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正について』では「企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する方を想定しており、施行日時点においては、中小企業診断士、公認会計士及び税理士が該当します。なお、施行後に対象者が変更になる場合は、HPにおいてお知らせします。」とされています。)
具体的には、事業の収支見込みやマーケット分析、人員計画などが具体的かつ合理的で、実現可能と評価された事業計画書を用意する必要があります。
専門家の確認書(サイン)を添えた計画書の写しを提出することで、入管当局は客観的な第三者の評価が得られた計画かどうかを判断します。
この要件により、単に「日本で会社を作りたい」という漠然とした計画では許可が下りにくくなりました。
しっかりと市場調査を行い、収益モデルや資金繰りの見通し、人員体制まで描いたプランを作成することが求められます。
必要に応じて専門家に相談し、計画のブラッシュアップと確認書の発行を依頼することが重要です。
その他のポイント
上記以外にも各種法令遵守や事業の安定性に関して次のような点が審査・要件として挙げられています。
- 必要な許認可を取得していること:業種によっては営業許可や資格が必要です(例:飲食店営業許可、不動産業の免許など)。これらを適切に取得・届出しているか確認されます。
- 納税義務や社会保険への加入:ビザの更新時には、雇用する従業員の雇用保険・社会保険加入状況や、その保険料納付状況、会社の源泉所得税や法人税・消費税など納税状況もチェックされます。税金や社会保険料を怠らず納めていることが信頼できる経営者の証となります。
- 日本での活動実態(長期出国に注意): 在留期間中に正当な理由なく長期間の出国をしている場合、本邦での活動実態がないものとして更新が認められないことがあります。長期出張等で出国が必要な場合は、理由と活動実態を説明できる資料(契約書、出張命令書、オンライン会議記録、取引記録等)を整理しておくと安全です。
- オフィス環境の適切さ:改正後は事業規模に応じた十分な広さ・設備の事務所を持つ必要があるとされています。特に自宅と兼ねるのは原則として不可のため、「単なる登記上の所在地ではなく実態ある事業所か」がより厳密に見られます。
以上が経営管理ビザ取得の主な条件です。
一つでも満たさない要件があると許可は下りませんので、準備段階からしっかりチェックしましょう。
2025年改正前後の比較と背景
2025年10月16日の省令改正によって経営管理ビザのハードルが上がったことを述べましたが、改正前と何がどう変わったのかを整理しておきます。
また、なぜこのような厳格化が行われたのか、その背景も押さえておきましょう。
改正前と改正後の主な違い
- 資本金要件:改正前は 「500万円以上」 の資本金または投資でOKでしたが、改正後は 「3,000万円以上」 に引き上げられました。金額が6倍となり、かなり大きな資金力が求められます。
- 従業員要件:改正前は資本金要件を満たせば従業員ゼロでもよかった(500万円出資で代替可能)ですが、改正後は 「常勤職員1名以上の雇用」 が明確に義務化されました。つまり出資がどれだけあっても最低1人は社員を雇わないといけません。
- 日本語要件:改正前はとくになし → 改正後はN2相当以上の日本語力(申請者またはスタッフ)必須に。
- 経歴要件:改正前は「管理者として雇われる場合のみ3年経験必要、経営者自身には学歴職歴要件なし」→ 改正後は申請者全員に3年経験か関連学位が必要に。
- 事業計画確認:改正前は任意(計画書提出は必要だが専門家のお墨付きは不要)→ 改正後は専門家の確認書付き事業計画が必須に。
- 事業所要件:従来も「日本に事務所を有すること」は必要でしたが、改正後は自宅兼オフィスは原則として禁止など運用がより厳密化されました。
まとめると、改正前は比較的少ない資金と一人社長でも取得しやすかったのに対し、改正後はまとまった資金力とチーム、人脈、計画性まで含めて総合力が求められるようになったといえます。
それだけ「本気度」の高い事業でなければ認められなくなったということです。
経営管理ビザの要件が厳しくなった背景
経営管理ビザの厳格化は突然行われたわけではなく、近年の制度悪用事例の増加や国際比較上の基準見直しといった背景があります。
一つは、「投資すれば誰でも取れる安易なビザ」として悪用されるケースが目立ったことです。
報道等でも、実際には事業を行わずペーパーカンパニーだけ設立して在留資格を得ている外国人がいることや、日本の経営ビザ取得ノウハウをうたう業者が海外で勧誘している実態が指摘されていました。
現行の500万円という資本金要件は国際的に見ても低水準で、「お金で買えるビザ」と揶揄される状況だったのです。
そこで日本政府は2023年に有識者による提言を受け、要件見直しに踏み切りました。
資本金要件を6倍の3000万円に引き上げ、従業員雇用も義務化することで、形だけの起業ではビザを与えない方針を明確にしたのです。
もう一つは、他国の投資家向け制度とのバランスという背景もあります。
例えば米国のEB-5(移民投資家)では、最低投資額が80万ドルまたは105万ドルとされています。(※一方、米国のE-2(条約投資家)は「相当額(substantial)」の投資が求められるものの、制度上の一律の最低金額は定められていません。)
他の先進国と比べて日本の500万円はあまりに安すぎました。
このため今回の改正には国際水準に合わせて基準を適正化する狙いもあります。
厳格化により、「真面目に小規模事業からコツコツ頑張りたい外国人起業家」にとってはハードルが上がりすぎるとの指摘もあります。
しかし一方で、日本の将来を見据えると「量より質」重視で本気の起業家だけ受け入れる方向に舵を切ったとも言えます。
制度の趣旨は、日本経済に実質的な貢献をする事業の経営者に限って在留を認めるということであり、裏を返せばそれだけ質の高いビジネスプランや経営力を示せれば歓迎されるとも言えるでしょう。
なお、既に経営管理ビザを持って日本に在留している方への経過措置も設けられています。
施行日(2025年10月16日)時点で在留中の人が更新する場合、そこから3年間(2028年10月までは)新基準を満たしていなくても経営状況や将来見込みを見て更新許可される場合があります。
しかし3年経過後の更新時には原則新基準に適合している必要があるため、現在ビザをお持ちの方も次回更新までに新要件を満たす準備を進めておくことが重要です。
経営管理ビザ取得のための準備と申請手続き
以上の要件をクリアできそうであれば、次は具体的な申請手続きのステップを確認しましょう。
経営管理ビザ取得までの流れは、大きく「事業の準備」と「入管への申請」に分かれます。
ここでは、新規に会社を立ち上げてビザを申請する場合をモデルに、一連の手順を解説します(既存の会社に迎え入れられる場合は会社設立の手順を省略できます)。
申請までの基本的な流れ
1. 事業計画の策定と資金準備:どんなビジネスを行うか計画を練り、必要資金(少なくとも3000万円)を用意します。併せて事務所物件や人材の当たりも付けておきます。
2. 会社設立の準備:商号(会社名)、事業目的、所在地、本店住所、役員構成など会社の基本事項を決めます。定款(ていかん)を作成して公証役場で認証を受け、資本金を銀行に払い込みます。その後、法務局で会社設立登記を申請し、法人を正式に設立します。株式会社や合同会社を設立する場合、このプロセスが必要です。個人事業主としてビザ申請する場合は登記は不要ですが、開業届の提出などが必要になります。
3. 各種届出・許認可取得:会社設立後、税務署に法人設立届出書や税務関係書類を提出します。また、事業内容によっては営業許可や免許を取得します(例:飲食店営業許可、不動産業の免許など)。こうした届出や許可取得まで済ませておくことで、入管への申請時に「事業開始の準備が整っている」ことを示せます。
4. 必要書類の収集・作成:ビザ申請に必要な書類一式を準備します。具体的な必要書類は後述の表のとおりですが、例えば事業計画書や登記事項証明書、賃貸契約書、各種証明書類など多岐にわたります。不備があると審査が止まってしまうため、専門家にチェックしてもらうことも検討しましょう。
5. 出入国在留管理局へ申請:準備が整ったら、地方出入国在留管理局に在留資格認定証明書(COE)の交付申請を行います(申請人が海外在住の場合)。既に日本にいる場合は在留資格変更許可申請となります。申請書類一式を提出し、審査を待ちます。審査期間は目安として1〜3か月程度です(新規性の高い事業だと長引くこともあります)。
6. ビザの取得:無事に在留資格認定証明書(COE)が発行されたら、それを持って日本大使館・領事館でビザ(査証)を取得し来日します。すでに日本在住者で在留資格変更が許可された場合は、在留カードに「経営・管理」の資格が付与されます。晴れて日本で経営者・管理者として活動開始です。
以上が一連の流れです。
なお、会社設立からビザ取得まで全て一人で行うことも可能ですが、定款認証や登記、入管手続きなど専門知識が要る部分もあります。
スムーズに進めるために、当事務所のような在留資格を専門とした行政書士に依頼することも一般的です。
特に入管への申請書類はボリュームが多く複雑なので、書類作成を入管業務のプロにサポートしてもらうと安心でしょう。
必要書類リスト(主要なもの)
申請時には多くの書類を提出しますが、主なものをカテゴリ別にまとめると次のようになります。
事業内容によって追加の書類提出を求められる場合もあるため、個々のケースで事前に入管や専門家に確認することをお勧めします。
| 書類の種類 | 具体例 |
| 本人に関する書類 | パスポート、証明写真、(日本在住なら)在留カード、住民票 など |
| 会社・事業に関する書類 | 定款、登記事項証明書(法人の場合)、開業届や納税関係書類、会社の印鑑証明書 など |
| 事業計画関連書類 | 事業計画書・収支予測書、業務内容の説明書、株主名簿(出資構成がわかる資料)、事業契約書(取引先との契約があれば) など |
| 資金関連の書類 | 資本金の払い込みが確認できる預金通帳の写し、出資金の残高証明書、資金の送金証明(海外から資金を持ち込んだ場合) など |
| 事業所関連の書類 | 事務所や店舗の賃貸借契約書のコピー、物件の写真、施設の概要図(レイアウト) など |
| 従業員関連の書類 | 常勤従業員の雇用契約書・労働条件通知書、従業員の住民票や在留カード(永住者等か確認するため)、給与支払い証明書(見込みでも可) など |
| 申請者の資格証明書類 | 履歴書、職務経歴書、卒業証明書(学位証明)、職歴を証明する推薦状や在職証明書、資格証(必要業種の場合) など |
| 許認可証明 | 業種によって必要な営業許可証や免許の写し(飲食店営業許可、古物商許可、不動産業免許など) |
| 専門家確認書 | 中小企業診断士や会計士等が確認した事業計画の確認書(改正後必須)、日本語能力証明書(JLPT合格証など、日本語要件の証明として) など |
書類の提出先は地方出入国在留管理局で、申請料は在留資格変更の場合4,000円(収入印紙代)のみです。在留資格認定証明書交付申請(海外からの場合)は無料で行えます。
書類は全て日本語で用意し、不足や不備があると追加提出や訂正を求められるので、漏れなく正確に揃えることが肝心です。
経営管理ビザ取得のポイントと注意点
最後に、経営管理ビザを確実に取得し、更新をスムーズに行うためのポイントや注意点をまとめます。
専門家の視点から、申請者の皆さんに是非押さえていただきたい事柄です。
【ポイント1】事業計画は具体的かつ実現可能に
単に「日本でビジネスをしたい」だけでは不十分です。
市場調査に基づいた売上計画や費用計画、集客戦略、人員計画まで盛り込んだ詳細な事業計画を用意しましょう。
改正後は専門家のお墨付きも必要なので、早い段階で行政書士や中小企業診断士に相談するのがおすすめです。
【ポイント2】資金の出所・使途を明確に
3000万円もの資金をどう用意したか、またそれをどのように事業に投下するかを説明できるようにしておきましょう。
銀行の残高証明や海外からの送金証明などで出資金の流れを示し、さらにその資金で何を賄い、どれくらいの運転資金が残るのかまで整理して書類に反映させます。
資金面の信頼性は審査の重要ポイントです。
【ポイント3】現場業務は従業員に任せ、自身は経営に専念
経営管理ビザ保持者は経営・管理そのものを行うことが求められ、許可される活動範囲もそれに限られます。
例えば飲食店経営者が自ら厨房に立ったりホールで接客するのは在留資格の範囲外の活動となり得ます。
現場の作業は信頼できる従業員に任せ、あなた自身は経営戦略立案やマネジメント、対外交渉などに注力しましょう。
法令・制度の遵守を徹底
事業を始めたら、税金や社会保険料の納付、労働法規の順守など当たり前ですが重要です。
入管は更新時にそうした遵法状況を細かく確認します。
特に社員を雇ったら社会保険への加入手続きを忘れずに行い、給与から源泉徴収した税金も納期限までにきちんと納めましょう。
まじめに経営している限り怖がる必要はありませんが、もし怠るとビザ更新に支障が出る可能性があります。
【ポイント4】複数名での経営管理ビザ取得はハードル高
共同創業者など外国人が複数で同じ会社の経営管理ビザを申請する場合、それぞれが個別に上記要件(特に経歴や日本語)を満たす必要があり、さらに事業規模が複数人の経営者を置く合理的な規模かを示さなければなりません。
小規模な会社にいきなり2人3人の外国人経営者は認められにくいため、可能であれば代表者1名がまずビザを取得し、他のメンバーは高度専門職ビザなど別の在留資格を検討するといった工夫も必要でしょう。
【ポイント5】専門家や自治体のサポートを活用
自力での準備が難しい場合、行政書士など入管手続きのプロに依頼するのは有効な手段です。
書類作成や要件充足のアドバイスを受けることで許可率も格段に上がります。
また、日本政府や自治体も外国人起業家向けの支援策を用意しています。
例えばスタートアップビザ(外国人起業活動促進事業等)は、自治体等の確認を受けて在留資格「特定活動」で起業準備を行える制度です。
在留期間は自治体・スキームにより6か月または1年などが設定され、更新により延長できる場合があります。
出入国在留管理庁の案内では、最長2年間、起業準備活動を行える制度として説明されています。
以上のポイントを踏まえ、「しっかり準備すれば必ず道は開ける」ということを覚えておいてください。
実際、2025年6月時点で経営管理ビザを保持する外国人は約44,760人にも上り、多くの起業家や経営者が日本で活躍しています。(出典:『在留外国人統計(e-Stat掲載データ)』)
条件は厳しいですが、しっかりした準備と計画性を持って挑めば、きっと日本での事業成功へのスタートラインに立てるでしょう。
経営管理ビザ取得後の更新
ここでは、ビザ取得後の更新に関してのポイントを解説します。
初回の在留期間は1年?
苦労して経営管理ビザを取得したのに、在留期間が「1年」でがっかりした、という話はよく聞きます。
しかし、これは標準的な扱いですので安心してください。
初めて事業を立ち上げた会社が、本当に計画通りに運営され、日本経済に貢献できる存在になるかどうかは、誰にもわかりません。
日本の起業生存率を見ても、5年後まで存続している会社は約4割という厳しい現実があります。
そのため、出入国在留管理庁はまず「1年間、様子を見せてもらいましょう」というスタンスを取ります。
この1年間は、あなたの経営手腕が試される、いわば「お試し期間」です。
運転免許を取得したばかりの人が、最初は有効期間の短い免許証を渡されるのと同じイメージです。
この1年間の経営実績が評価されれば、次の更新で3年、そして5年と、より長期の在留期間が許可される道が開けていきます。
事業の継続性と会社の業績
1年後の更新申請で、審査官が最も重視するのは「事業が健全に継続しているか」という点です。
最初の申請では「事業計画書」という未来の約束が評価の中心でしたが、更新では「決算書」という過去1年間の実績が全てを物語ります。
赤字決算の場合
特に起業1年目は、事務所の初期費用や設備の購入など、投資が先行するため赤字決算になることは珍しくありません。
この点については、出入国在留管理庁もある程度理解を示してくれます。
しかし、単に「赤字でした」では通用しません。
なぜ赤字になったのかという合理的な理由と、来期以降どのようにして黒字化していくのかという具体的な改善策を示した「事業改善計画書」を提出することが、更新の許可を得るために不可欠です。
【注意すべき危険信号】
- 2期連続の赤字: 1年目の赤字は許容されても、2年目も赤字となると、事業の継続性に深刻な疑問符が付きます。
- 債務超過: 会社の負債が資産を上回っている状態です。これは会社の体力が尽きかけているサインであり、更新が極めて困難になる重大な危険信号です。
役員報酬の設定
ビザの更新において、多くの経営者が陥りがちなジレンマが「役員報酬」の設定です。
「会社の利益を出すために、自分の給料(役員報酬)を低く抑えたい」と考えるのは自然なことです。
しかし、これがビザ更新の大きな落とし穴になり得ます。
役員報酬を極端に低く設定する(あるいはゼロにする)と、審査官はこう考えます。
「この経営者は、この収入でどうやって日本で生活しているのだろう?」「事業がうまくいっておらず、十分な報酬を払えないのではないか?」「あるいは、申告していない別の収入源(不法就労)があるのではないか?」。
このような疑念を抱かせないため、役員報酬には「生活給」としての下限が存在します。
- 推奨される最低ライン: 月額18万円〜20万円以上が、実務上の目安とされています。これは、独身者が日本で最低限の生活を営むために必要な金額と考えられています。
- 家族を扶養する場合: 配偶者やお子さんがいる場合は、当然ながらより高い報酬設定が求められます。
- 将来の永住を見据えるなら: 将来的に永住許可申請を考えているのであれば、安定した生計を証明するためにも、年収300万円(月額25万円)以上を目指すのが賢明です。
また、従業員を雇用している場合、経営者であるあなたの役員報酬が、その従業員の給与よりも低いというのは不自然です。
経営者としての責任と役割に見合った、そして日本で安定した生活を送れるだけの報酬を、会社の経費として適切に計上することが、事業の健全性を示す上で非常に重要なのです。
他の就労ビザとの違い
「自分は本当に経営管理ビザで合っているのだろうか?」——そう疑問に思う方もいるかもしれません。
外国人が日本で働くためのビザ(在留資格)には様々な種類があり、それぞれ目的や要件が異なります。
特に、「技術・人文知識・国際業務」ビザや「高度専門職」ビザとの違いを理解することは、あなたが正しい道筋を歩むために重要です。
以下の比較表で、それぞれのビザの役割の違いを明確にしましょう。
主要な就労ビザの比較
| 項目 | 経営・管理 | 技術・人文知識・国際業務 | 高度専門職(経営・管理活動) |
| 主な活動内容 | 会社の経営・管理。事業の意思決定を行う。 | 会社との契約に基づき、専門的な知識や技術を活かした業務に従事する(エンジニア、通訳、マーケターなど)。 | 経営・管理活動のうち、ポイント制で高く評価される高度な活動。 |
| 求められる立場 | 経営者・管理者(雇う側) | 従業員(雇われる側) | 高度な経営者・管理者 |
| 資本金要件 | 原則3000万円以上かつ最低1名の日本人等スタッフの常勤雇用)。 | なし | 経営管理ビザの要件を満たす必要がある。 |
| 学歴・職歴要件 | 経営・管理または申請事業分野に関する修士号・博士号・専門職学位を取得していること、又は事業の経営や管理について3年以上の実務経験があること | 原則、関連分野の大学卒業または10年以上の実務経験が必要。 | ポイント計算の重要項目であり、高学歴・高年収・長い職歴が有利。 |
| 家族の就労 | 配偶者は「家族滞在」ビザで、原則週28時間以内の就労に制限される。 | 同上 | 一定の条件下で、配偶者のフルタイム就労が可能。 |
| 永住権への道 | 原則として日本に10年以上在留が必要。 | 原則として日本に10年以上在留が必要。 | ポイントに応じて、最短1年または3年の在留で永住申請が可能になる優遇措置がある。 |
この表からわかる最も根本的な違いは、「経営・管理」ビザが「雇う側(経営者)」のためのビザであるのに対し、「技術・人文知識・国際業務」ビザは「雇われる側(従業員)」のためのビザであるという点です。(※詳しくは『在留資格「技術・人文知識・国際業務ビザ」をわかりやすく説明します』をご参照下さい)
この立場の違いが、全ての要件の違いに繋がっています。
「経営者」は、事業を立ち上げ、雇用を生み出す責任があるため、事業そのものの健全性(資本金、事業所、事業計画)が問われます。
一方、「従業員」は、特定の業務を遂行する能力があることを証明する必要があるため、個人のスキル(学歴、職歴)が問われるのです。
そして「高度専門職」ビザは、これらの活動を行う人々の中でも、特に優秀な人材(高度人材)を日本に誘致するための、いわば「VIPパス」です。
経営管理ビザの要件を満たした上で、さらに学歴、職歴、年収などで算出されるポイントが一定基準(70点以上)に達した場合に取得でき、永住権申請期間の短縮など、様々な優遇措置が受けられます。(※詳しくは『在留資格「高度専門職」|高度専門職を分かりやすくご説明します』をご参照下さい)
あなたが会社の方向性を決め、事業のリスクを負い、従業員を率いていく立場を目指すのであれば、選ぶべき在留資格は「経営・管理」ビザです。
まとめ

いかがでしたでしょうか。
会社の設立や事業計画など、お金もかかるし作業も多くて大変だと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
経営管理ビザは他の在留資格の中でも難易度が高いと言われています。
しかし、きちんと実現性のある事業計画を建てて、安定して継続可能な事業を始めるということが伝えられる申請が出来れば、在留資格は付与されます。
特に以下の3点には注意が必要です。
- 信頼性のある事業計画: あなたの情熱とビジネスモデルを、具体的かつ論理的な言葉で語ること。
- 実体のある事業所: あなたのビジネスが根を張る、確固たる拠点を確保すること。
- 明確な事業資金: あなたの覚悟と事業の体力を、クリーンなお金の流れで証明すること。
これらの要件の一つ一つは、出入国在留管理庁があなたという経営者候補の「信頼性」と「本気度」を測るためのものです。
この記事が、経営管理ビザの取得を検討されている方への参考になりましたら幸いです。






