はじめに

2025年8月26日(火)に「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令等の一部を改正する省令案」が公示されました。

行政機関が命令等(政令、省令など)を制定するに当たって、事前に命令等の案を示し、その案について広く国民から意見や情報を募集する、いわゆるパブリックコメントの実施です。

改正案の中には、在留資格「経営・管理」(通称、経営管理ビザ)の取得に必要とされる資本金の要件が、現行の500万円から3000万円へと大幅に引き上げられるという内容も含まれています。

本記事は、この重大な制度変更の動向について、現時点(2025年8月26日)の報道を基に、分かりやすく説明したいと思います。

※本記事は以下の動画でも分かりやすくご説明しています。

3000万円要件案の可能性

まずはパブリックコメントで公開された改正案をみていきたいと思います。

「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令等の一部を改正する省令案」に係る意見公募手続の実施について

何が変わるのか? 制度変更案の内訳

それでは具体的にどのような変更が検討されているのかをみてみましょう。

【変更点1】事業規模の基準

出入国在留管理庁の省令改正案の事業規模の基準は、主に二つの大きな変更点があります 。  

第一に、資本金要件の大幅な引き上げです。現行制度では、事業規模の要件として「資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること」が定められていますが、改正案ではこの基準が現行の6倍にあたる3000万円以上に引き上げられる方針です。  

第二に、常勤職員の雇用義務化です。現行制度では、資本金500万円の要件を満たせば、必ずしも常勤職員を雇用する必要はありませんでした。

しかし、改正案では資本金3000万円の要件に加えて、常勤の職員を1人以上雇用することが新たに義務付けられる見込みです。

ここで注意すべきは、この「常勤職員」には就労ビザで働く外国人は含まれず、日本人、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、または定住者といった、就労活動に制限のない在留資格を持つ人物でなければならないという点です。  

現行の基準では、事業の規模として「経営または管理に従事する者以外に日本に居住する2人以上の常勤職員」または「資本金または出資の総額が500万円以上」のいずれかに該当していれば良いとされていました。

今回の改正案では、以下の点が変更されます。

  • 常勤職員の数: 2人以上から1人以上に緩和されます。
  • 資本金・出資の総額: 500万円以上から3,000万円以上に引き上げられます。
  • 基準の適用: 「常勤職員1人以上」かつ「資本金または出資の総額が3,000万円以上」の両方に該当することが求められます。

これにより、事業規模の要件がより厳格になります。

これらの変更が申請者に与える影響は計り知れません。

以下の比較表は、現行制度と改正案の主な違いを視覚的にまとめたものです。

表1:現行(500万円)要件 vs 改正案(3000万円)要件の比較

項目現行要件(500万円ルール)改正案(3000万円ルール)変更がもたらす実践的な影響
資本金・投資額500万円以上の出資 または 常勤職員2名以上の雇用3000万円以上の出資 かつ 常勤職員1名以上の雇用参入への金銭的障壁が劇的に上昇する。資本金の代わりに職員雇用で代替する柔軟性が失われる。
常勤職員の雇用資本金500万円を満たせば必須ではない最低1名の常勤職員雇用が必須創業者一人でのスモールスタートが困難になり、事業初日から給与や社会保険料といった継続的な運営コストが発生する。
審査の焦点事業計画の実現可能性、資本金の合法性高額な資金的コミットメント、給与支払能力の維持、事業の持続可能性審査の重点が「実現可能な計画」から、「既に潤沢な資金を持ち、運営体制が整った事業体」へと移行する。

【変更点2】学歴・職歴要件

現行の制度では、事業の管理に従事しようとする場合に「事業の経営または管理について3年以上の経験(大学院で経営・管理を専攻した期間を含む)」を求めていました。

今回の改正案では、申請人が以下のいずれかに該当することが求められます。

  • 学歴: 経営管理に関する分野または申請に係る事業の業務に必要な技術・知識に係る分野において、博士、修士、または専門職学位を有していること。
  • 職歴: 事業の経営または管理について3年以上の経験があること。この経験には、日本で貿易その他の事業の経営を開始するための準備行為を行う活動として「特定活動」の在留資格で滞在していた期間も含まれます。

これにより、学歴または職歴のいずれかで専門性が求められることになります。

【変更点3】申請時に提出する書類

提出資料についても変更があります。主な変更点は以下の通りです。

  • 事業計画書: 「経営に関する専門的な知識を有する者による評価を受けたもの」の提出が義務付けられます。
  • 事業の規模に係る提出資料:当該外国人を除く常勤職員の総数を明らかにする資料と、当該職員に係る賃金支払に関する文書および住民票、在留カードまたは特別永住者証明書の写し。
  • 本金の額または出資の総額を明らかにする資料:両方の提出が求められ、これまでの「いずれか」という選択肢や「その他事業の規模を明らかにする資料」の項目が削除されます。
  • 学歴・職歴の証明: 事業の経営または管理に従事するいずれの場合にも、学位を有することを証する文書または職歴その他の経歴を証する文書の提出が求められます。

【変更点4】更新申請の提出書類

在留資格「経営・管理」の更新申請においても、事業の規模に係る提出資料に変更があります。

  • 事業の規模に係る提出資料:当該外国人を除く常勤職員の総数を明らかにする資料と、当該職員に係る賃金支払に関する文書および住民票、在留カードまたは特別永住者証明書の写し。
  • 資本金の額または出資の総額を明らかにする資料: 上記両方の提出が求められ、これまでの「いずれか」という選択肢や「その他事業の規模を明らかにする資料」の項目が削除されます。

【施行時期と現状】この改正は決定事項か?

現時点(本稿執筆時点)で、この変更はまだ最終決定されたものではなく、あくまで「省令改正案」の段階です。

出入国在留管理庁は、この改正案を公表し、2025年9月24日までパブリックコメント(国民からの意見公募)を受け付けています。  

しかし、その後の手続きは迅速に進むと見られています。

パブリックコメント期間の終了後、大きな修正がなければ、早ければ2025年10月中旬にも改正省令が施行される方針であると報じられています。  

この一連の動きは、単なる検討段階ではなく、政府の強い政策的意志が働いていることを示唆しています。

当初、政府が要件引き上げの検討に入ったという報道から 、自民党の部会への指針提示 、そして今回の省令改正案の公表とパブリックコメントの開始までが、極めて短期間で進められました。

この速度感は、政策の方向性はおおむね固まっている可能性が高いことを物語っています。

したがって、申請を検討している方は、「改正が見送られるかもしれない」という希望的観測に頼るのではなく、「改正はほぼ確実に行われる」という前提で行動計画を立てる必要があると思います。  

「なぜ」厳格化するのか? 政府の意図と背景

「なぜ」厳格化するのか? 政府の意図と背景

今回の厳格化の最大の目的は、在留資格制度の不正利用への対策強化です 。

現行の500万円という要件は、実態のないペーパーカンパニーを設立し、事業活動を行う意思がないにもかかわらず、日本に居住するためだけに在留資格を取得する手段として悪用されるケースが後を絶ちませんでした。  

さらに、今回の改正は国際的な基準との整合性を図るという側面も持ち合わせています。

アメリカや韓国といった他の先進国では、同様の投資家向けビザに対してより高い投資額が要求されており、日本の500万円という基準は国際的に見て低い水準にありました。

このことが、「比較的容易に在留資格が取得できる国」という認識を生み、制度の信頼性を損なう一因となっていたのです。  

ここで注目すべきは、改正案が「資本金3000万円」と「常勤職員1名の雇用」という二重の要件を課している点です。

従来の500万円要件の弱点は、一度資本金を振り込めば、その後は事業が休眠状態であっても形式上は要件を満たせてしまう点にありました。

しかし、常勤職員の雇用を義務付けることで、企業は毎月の給与支払いや社会保険料の納付といった継続的かつ検証可能な事業活動をおこなう証明になります。

ペーパーカンパニーが一度きりの資本金を用意することは可能かもしれませんが、正規の従業員に対する給与を毎月支払い続けることを偽装するのははるかに困難であり、コストもかかります。

この二重の要件は、真摯に事業を行う意思のない申請者を排除するために機能することが期待されていると言えます。

まとめ

本記事でご説明した通り、日本の在留資格「経営・管理」は、大きな転換点を迎えようとしています。

資本金要件の大幅な引き上げは、日本での起業を目指す外国人にとって、参入障壁を格段に高めるものになります。

経営管理ビザを比較的容易に取得できた時代が終わりを告げようとしていると言っても良いと思います。

これからの日本での起業は、潤沢な資金、緻密な計画、そして真に実現可能なビジネスモデルが不可欠となります。

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